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顔面神経麻痺の治療
治療は、顔面神経麻痺の原因によって異なってきますので、「顔面神経麻痺の原因」で述べた(1)~(4)に即して治療方法をご説明します。
(1)急に麻痺が生じる場合に対する治療
「ベル麻痺」、「ハント症候群」に対する早期初期治療は耳鼻咽喉科が担当しております。
一般的には、顔面神経のむくみを取るステロイド治療とウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤による治療が行われます。治療により8割の方が、ほぼ元の顔の状態に戻りますが、約2割の方で、表情筋の動きが十分ではなかったり(不全麻痺)、例えば、口を動かすと眼が一緒に閉じてしまうような異常共同運動という後遺症が残ってしまう可能性があります。
最近では、早期に適切な表情筋のリハビリテーションを行うことで、こうした後遺症を軽減できることが分かってきていますので、適切な医療機関で適切なリハビリテーションを継続することが重要です。
このような適切なリハビリテーションによっても、不全麻痺や異常共同運動が残ってしまった場合には、できれば初めの発症から6カ月以内に、形成外科を受診していただくことをお勧めします。6カ月以内と申しますのも、顔面の表情筋は顔面神経麻痺が生じますと動かない状態が続き、どんどん痩せ(萎縮)てきて6カ月以上過ぎるとかなりの表情筋が痩せてしまいます。
一旦、痩せてしまった表情筋に、どんなに顔面神経が再生してきても、回復しにくい状態になることが分かってきていすので、表情筋が痩せてしまう6カ月よりも前に、形成外科を受診していただきたいと思います。
形成外科では、表情筋が痩せてしまう前でしたら、舌を動かす舌下神経や咬筋神経を顔面神経につなげる手術(動的再再建術:神経移植・移行術、神経ネットワーク型形成術)を行うことで、表情筋の動きを取り戻すことが出来ます。
残ってしまった、異常共同運動に対しては筋肉切除手術やボツリヌス毒素注射などを用いた治療とリハビリテーションを組み合わせることで症状の改善が得られます。
脳卒中が原因の顔面神経麻痺は、脳神経外科や救急科での適切な早期治療により回復される場合もありますが、後遺症として顔面神経麻痺が生じてしまう場合があります。形成外科では、この場合、顔の左右バランスを整える顔面神経麻痺静的再建術(眉毛位置を合わせる、口角を挙上させるなど)を行います。
(2) 外科手術やケガの後に麻痺が生じた場合に対する治療
外科手術や側頭骨骨折に伴い顔面神経が損傷を受けざるを得ない場合もあります。
このような場合、そのままでは顔面神経の回復は期待できないことが多いので、手術後なるべく早期に、遅くても3~6カ月以内に、形成外科を受診していただくことをお勧めします。
形成外科では、表情筋が痩せてしまう前でしたら、舌を動かす舌下神経や咬筋神経を顔面神経につなげる手術(動的再建術:神経移植・移行術、神経ネットワーク形成術)を行うことで、表情筋の動きを取り戻すことが出来ます。
また、顔面の深い傷によって顔面神経が損傷された場合は、早急に形成外科を受診していただき、損傷された顔面神経を再建いたします。
(3)ゆっくりと麻痺が生じる場合に対する治療
脳神経外科や耳鼻咽喉科で診断がつけば、担当科で治療が行われますが、後遺症が残ってしまった場合は、できるだけ早期に形成外科を受診していただければ、残存した表情筋をできるだけ温存する治療や、顔の左右バランスを整える静的再建術(図4、5)を行います。
以上の(1)~(3)で生じた顔面神経麻痺に対する治療の十分になされなかった結果、表情筋が完全に痩せてしまい、顔面神経麻痺が残ってしまわれた場合には、もともとの表情筋の機能を取り戻すことはできませんので、それに代わる治療が必要になります。
顔面の左右バランスのみを取り戻す治療は、静的再建術といいます。静的再建術には、下がってしまった眉毛の位置を引き上げる手術、外反してしまった下まぶたを治す手術、下がってしまった口角を引き上げる手術などなど、お悩みの症状に合わせた数多くのオーダーメイドの手術法を組み合わせて行います。
顔面の左右バランスをとるだけではなく、顔の動きを積極的に取り戻す治療を、動的再建術といいます。
動的再建術で多いのは、眼を閉じることが出来るようにする手術:側頭筋移行術による閉眼機能動的再建術と、口角を挙げて笑う表情を作る遊離筋肉(広背筋、薄筋、前鋸筋など)移植術による笑いの動的再建術があります。
笑いの動的再建術では、痩せてしまった笑いを作る表情筋の代わりに、背中や大腿部の付け根の筋肉とその運動神経および栄養血管を採取して移植します。移植した筋肉の栄養血管は、顔面にある動脈と静脈に吻合して血流を再開します。また移植した筋肉の運動神経は、顔面神経や咬筋神経とつなぐことで、3カ月以降に徐々に動きを取り戻して、やがて笑いの表情を作ることができるようになります。
顔面神経麻痺の症状は顔面全体に及んでいますので、これらの静的再建手術と動的再建手術を組み合わせたオーダーメイドの治療をご提供しております。
(4)生まれつき麻痺が認められる場合に対する治療
生まれつきの麻痺には、麻痺の範囲、程度に大変バリエーションがありますので、小児科の先生に顔専門の形成外科を紹介していただきます。
生まれつきの麻痺の場合には、表情筋そのものが十分発達していないことが多いです。
顔面神経麻痺でも、特に、眼を閉じる機能と口角を挙げる機能(笑いの機能)の二つがないことが大きな問題になってきます。
眼を閉じることが出来ないと角膜がダメージを受けて視力に障害が生じますので、眼を閉じることが出来る手術:側頭筋移行術による閉眼機能動的再建術を行います。
また、口角を挙げて笑う表情ができないとコミュニケーションに問題が生じますので遊離筋肉(広背筋、薄筋、前鋸筋など)移植術による笑いの動的再建術を行います。一般的に、遊離筋肉移植術は、通常小学生以降であれば、手術が可能となります。
この他にも、下口唇だけの麻痺の場合も比較的多くあり、特に笑った時に顔のバランスが崩れるので、笑った時のバランスをとる静的手術を行います。これも小学生以降であれば手術が可能となります。
生まれつきの顔面神経麻痺に合併しやすい小耳症手術や顔の大きさの左右バランスを取る手術も、顔面神経麻痺の治療と並行して、顔の成長に合わせてタイミングをはかって行います。
第1第2鰓弓症候群、小耳症に関する詳しい治療方法に関しましては、こちらをご参照ください。「第1第2鰓弓症候群・小耳症による顔面変形の治療」